●新しい患者がきた
ある日、威勢のいいオジサンが私のいる病棟に入院してきた。
私より10くらい年上か、ハツラツとしてちっとも病人に見えない。髪の毛は「シンサイ刈り」、ようするに耳のあたりからこめかみあたりまでずっと刈っていて、その上には短い髪があり、左右の額から後ろに向けて今風の細い剃りこみが入れてある。
DA PUMPのISSAをオジサンにした、と想像してもらえばいい。菅原文太のような雰囲気で、髪型だけを今風にした感じ。
メンヘラ男。アルコール依存症歴11年、25歳でうつ病、39歳でアルコール依存症とうつ病を再発、さらに双極性障害になりメンヘラに。断酒に失敗し広島の瀬野川病院、呉みどりヶ丘病院などの精神病院・閉鎖病棟に10回も入院。精神障害者手帳2級、障害年金2級。断酒・入院・うつの体験談、どうやって飲まないで生きていくかのノウハウを書いていきます。
※なお、筆者の体験談は事実のままですが、断酒会の事例は架空の人物ものとします
精神病院に入院してきたヤクザの人
その菅原さん(仮名)は幾度も入院しているのか、看護師長と親しげに何かしゃべったあと、私の病室に入り、ごろんと寝転がりった。
菅原「あー疲れた、やっと眠れるわい」
そういってごろごろし始めた。
その菅原さんの空気がカタギの雰囲気ではなかったので聞いてみると
菅原「ワシは〇〇組のもんじゃけど、組長にアレコレいわれるわ、部下がすぐもめごとを起こすわで疲れたんよ。一週間くらいおらしてもらうけ、ヨロシク」
「は、よろしくお願いいたします」
菅原「昨日ものう、部下が乗った車がポリ(警察)と揉めとるちゅうて夜中に呼び出されて、ワシャもう疲れたんよ、寝る」
そういって寝てしまった。
ヤクザの中間管理職
同室でしかもベッドが対面だったので、後々話を聞いてみると
- 組長があれやこれやウルサイ。ヤクザの世界は上に絶対服従なのでやっとれん
- 部下が問題ばかり起こす。その尻ぬぐいに飛び回らなければいけないのでやっとれん
- 最近、シノギ(その筋の人たちの稼ぎ)が少なくてやっとれん
・・・・・・これは、社長になんやかやいわれ、部下の教育を頑張っているが売上がなかなかあがらない、サラリーマンの中間管理職そのものではないか。
菅原さんは
「一週間ほどここで休ませもらうわ」
などと閉鎖病棟をホテル代わりに使うようだった。
確かに、入院していれば出ることはできないし、敵対する者は閉鎖病棟に入れない。メシは上げ膳据え膳だし、とやかくいう人もいない。ホテルよりまったく安全だ。いい隠れ家を思いついたものだ。
面倒見が良いヤクザ
ヤクザだから怖いかというと、それは「ヤクザモード」になった時だけなのであって、素は普通の気のいいオジサンだった。
OT(作業療法)でカラオケがあるが、菅原さんはシラフで歌うのは慣れているらしく、信じられない高得点を叩きだした。スナックなどで相当遊んでいるようだった。
根っから面倒見がよいからか、
「おまえ、仕事何しよるんや?」
ときかれ、
「入退院を繰り返したんで、首になりました。元はシステムエンジニアです」
と答えると
「おう、知り合いにそういうやつがおるわ。紹介したるわ。電話番号おしえれ」
と、病院内でも面倒をみる始末。
「休みにきたのだから休めばいいのに・・・・・・」と心の中でつぶやいた。
部下がお見舞いに来る
ある日、菅原さんの部下と思われる数人が見舞いにきていた。
4人がけのテーブルに座った彼らを見て「あ、あの2人、知っている!」と、思わず口に出してしまった。そう、部下のうち2人は、以前入院していた時に同じく入院していたのだ。確かシャブだったと思う。
退院
普通の「医療保護入院」や「措置入院」では閉鎖病棟を一週間で退院することはありえないが、菅原さんは「任意入院」のため、いつでも退院できる。
本当にきっかり一週間で退院していった。そして病棟は静かになった・・・・・・
参考:強制入院、医療保護入院でまた保護室へ
危うくヤクザになりかけた
私は菅原さん組事務所を知っていた。繁華街のど真ん中に事務所を構え、その前にベンツやレクサスの黒や白がいつも停まっていたいたため、飲み歩く時に知っていた。
私が退院して、行く当てもなく仕事もなく困っていたところに、ふと菅原さんを思い出した。もう怖いものがなくなっていた私は、菅原さんを訪ね、組事務所にいってみることにしました。
事務所は黒い扉で、その上に防犯カメラが3つも4つも備えつけられていた。
呼び鈴を押してみる。
しかし、うんともすんともいわない。もちろん監視カメラで確認されていたと思う。白いTシャツに、ジーンズの半ズボン、デイバックを背負ったよくわからない青年が平気でヤクザの組事務所の呼び鈴を何回も押している。
むこうに「なんかヤバイヤツがきた」と思われていたかもしれない。何回押しても返事がないので、諦めて帰ることにした。
もしあそこで誰か出て来ていたら、今ごろ私は裏の世界にいたかもしれない・・・・・・
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