ある日、黒いヘッドホンをつけた少年がテレビの前に座っていた。年は20歳いっているかいないか、GパンにTシャツ、髪は坊ちゃん刈りで、いいとこのお坊ちゃんという感じだ。
彼はデイルームの一番前の、テレビの真ん前の席に座って、テレビを独占していた。そしてなぜか耳に、高級そうなヘッドホンを装着しているのが気になった。
●HSPとは
HSPとはあまり聞きなれない略語だが、Highly Sensitive Person(ハイリーセンシティブパーソン)の略で、周囲の音・臭い・光などを普通の人より敏感に感じてしまう人たちのこと。日常生活で気疲れし、生きづらさを感じる人が多いのだが、病気ではないので治療はない。
メンヘラ男。アルコール依存症歴11年、25歳でうつ病、39歳でアルコール依存症とうつ病を再発、さらに双極性障害になりメンヘラに。断酒に失敗し広島の瀬野川病院、呉みどりヶ丘病院などの精神病院・閉鎖病棟に10回も入院。精神障害者手帳2級、障害年金2級。断酒・入院・うつの体験談、どうやって飲まないで生きていくかのノウハウを書いていきます。
※なお、筆者の体験談は事実のままですが、断酒会の事例は架空の人物ものとします
ヘッドホンをつけた少年現る
8月、ちょうどオリンピックの時期だったので、テレビはロンドン・オリンピックが流れていた。外国人選手たちの競泳競技が行われており、少年は黒いヘッドホンをつけたまま、テレビのソファーに座ってずっとテレビを見続けていた。
まず疑問に思ったのは、ヘッドホンで何を聞いているのだろう、ということだった。私は恐るおそる後ろに近づき、ヘッドホンを穴のあくほど観察してみたのだが、コードのようなモノは繋がっていない。(当時は、現在のようにiPadからBluetoothでヘッドホンに音を流すようなシステムはまだなかった)
少年はただ、ヘッドホンをしている。
ヘッドホン単体で何か音楽を聞けるようなモノかと思い、さらに穴があくほど観察してみたのだが、音が漏れるようでもない。少年がリズムに乗っているようでもないのです。
ただ、少年はテレビに写っている50メートル平泳ぎ競技などに夢中になっているようだった。では、あのヘッドホンはいったい何ぞや?音に過敏なら、耳栓でもつければいい。
世にも奇妙な話、ヘッドホン少年
周りをみわたしてみても、目が合う患者たちは首をかしげるばかり。
わが病棟は、「見たい番組がある人は、テレビのチャンネルを自由に変えてもよい」という暗黙の了承があったため、少年がオリンピックを観ても誰も文句を言う人はいない。北島康介選手など日本人選手が活躍している競技なら別にかまわない。
しかし少年が観ているのは、日本人はいっさい出ず、ただベネズエラやキューバやニュージーランドの水着を着た水泳選手たちがひたすら泳ぐ、それをずっと見ていた。
テレビのチャンネルの取り合い
日本人が一人も映っていないオリンピックを見続けている。それには、やはりまわりの大衆の不満がつのっていった。
誰かがリモコンでチャンネルを替え、リモコンはすばやく隠された。しかし、少年はバカかと思っていたのだがバカではなかったらしく、リモコンが無いとわかるとテレビ本体下側のボタンを直接操作してチャンネルを元にもどした。
またリモコンでチャンネルを変える。少年はテレビのボタンでチャンネルを戻す。何回かそのやりとりが繰り返されたあげく、大衆の不満は看護師へと伝えられた。
そして少年は、その日のうちに看護師によって保護室へ連れ去られていった。「大部屋には合わない」という判断が下されたのだろう。それ以来、まったく少年を見なくなった。
あのヘッドホンは、一体なんのために装着してたのか?耳鳴りがするのであれば、耳の中が悪いのでヘッドホンは意味はない。統合失調症患者のように聴こえてはいけないものが聞こえるのであれば、頭の中で聞こえるのであってヘッドホンはやはり意味がない。
その時はHSPのことは知らなかったため「不思議な病気もあるものだ」としか思っていなかった。
今思うとたぶん、少年はHSPだと思う。冒頭で述べたように、HSPは
「周囲の音・臭い・光などを普通より敏感に感じてしまう人たちのこと。日常生活で気疲れし、生きづらさを感じるが、病気ではないので治療はない」
たぶんこれだと思う。
治療ができないのなら、一生つらいな・・・・・・
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