私はアルコール依存症で精神病院の閉鎖病棟にいくたびか入院しました。
この記事は、精神病院で起こったことや体験談を書いたものです。
※記事は、事実をもとに構成されています。決して薬物の乱用を勧める内容ではありません。
「今から逮捕されるんや・・・・・・」
喫煙所でしかめっ面でタバコの煙を吐き出しながら、彼はボソリとつぶやいた。
「逮捕されたら、生保(生活保護)は切られるんかのぉ?」
続けて、私にそう聞いてきた。
英文字のはいった白のTシャツにジーパンの彼は、一見カタギにしかみえない。
ヤジウマたち4、5人が、一斉に彼のそばに集まってきた。しかしそこにはアルコール依存症しかいなかったため、誰も彼の疑問には答えられなかった。
「ちょいと、呼んできます」
私は、薬物で入院中のとある筋モノの患者を探しにデイルームへ駆けった。
その筋の人はすぐに見つかり、2人で慌ただしく喫煙所に戻った。
メンヘラ男。アルコール依存症歴11年、25歳でうつ病、39歳でアルコール依存症とうつ病を再発、さらに双極性障害になりメンヘラに。断酒に失敗し広島の瀬野川病院、呉みどりヶ丘病院などの精神病院・閉鎖病棟に10回も入院。精神障害者手帳2級、障害年金2級。断酒・入院・うつの体験談、どうやって飲まないで生きていくかのノウハウを書いていきます。
※なお、筆者の体験談は事実のままですが、断酒会の事例は架空の人物ものとします
薬物依存患者が逮捕、実刑になる
生活保護で今から逮捕の彼を、S氏とする。私よりいくつか年下だ。
S氏はまだ保護室におり、昨晩、刑事が何人かやって来て、パシャパシャと写真を撮っていた。
違法薬物がバレて警察にパクられ、拘置所からここへ送り込まれたとのことだった。
私「逮捕されたら、実刑ですか」
S氏「そうなるじゃろう」
私「やはり広刑(広島刑務所)ですかね。」
S氏「どうかのぉ。鳥取、島根、広刑と行ったが、広刑が一番エエのぉ」
どうやら前科が何度もあるようで、いろんな刑務所を経験している。実刑は間違いないようだ。
カタギではない筋モノの患者
さきほど呼んできたその筋の人は、そういう人たちと同じ空気を身にまとっていて、カタギでないのはすぐにわかる。
その筋モノは40歳くらいだろうか。Y氏とする。
S氏とY氏はいくらか話しこんでいた。
どうやら共通の知人(既に死亡)がいたようで、盛り上がっていた。S氏は逮捕直前なので、テンションが上がったり下がったり不安定になっている。
Y氏「買った、ではなく“もらった”ことにすれば、刑は軽くなるで」
S氏「ホンマですか。じゃあ、あの死んだ人にもらったコトにしますわ」
死人にもらったことにすれば、そこから先は捜査できない。よく考えてある。
男性の看護師が、ずっと彼を見張っていた。
アル中の患者が何本も、タバコをS氏へ渡していた。そのタバコに次から次へとひっきりなしに火を着け、白い煙をはき出す。情緒不安定になっているようだ。
それも致し方ない、今から3年間は塀の中で過ごさねばならないのだ。
本来は患者同士でタバコなどのモノの貸し借り、やり取りを行ってはいけない。
が、今から逮捕される人間に、看護師はクチをつぐんで黙認していた。
刑事と警察官が、彼の逮捕を待ち構えていた
最後の吸殻を灰皿に投げつけたS氏は、看護師に連れられて出て行った。
看護師詰所には、灰色スーツの刑事と、白いワイシャツに紺色のベストをまとったいわゆる制服姿の県警二人が待ち構えていた。
すぐにでも逮捕する構えだ。
「では、3年後に」
「じゃ、3年後に」
それがS氏と私たちの、最期に交わした言葉だった。
私はアルコールという薬物の依存だが、合法でよかった。いくら飲んでラリっても、逮捕されることはない。
まるでドラマの中にしか出てこないような非日常的な会話が、日常的に行われる。
精神病院・閉鎖病棟の実態だ・・・・・・
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